› 北限のジュゴンを見守る › 辺野古埋立承認申請書への意見
2013年07月17日
辺野古埋立承認申請書への意見
7月17日 下記へ持参しました。
○ 〒905-0015 名護市大南1-13-11 沖縄県北部土木事務所維持管理班
公有水面埋立承認申請書(名護市辺野古)に係る利害関係人の意見書
平成 25 年 7月 17日
沖縄県知事 仲井眞 弘多 あて
提出者 住 所:沖縄県名護市宮里4−12−8
氏 名:北限のジュゴンを見守る会 鈴木雅子
電 話:090−8032−2564
E-mail:n-hokugen.19@kjd.biglobe.ne.jp
利害関係の内容
沖縄のジュゴンの保護を目的として14年間余り活動してきた自然保護団体として、
その重要な生息海域の破壊によるジュゴンの絶滅シナリオを放置することはできな
い。
意 見
世界の最も北に生息する希少な「北限のジュゴン」は国の定める天然記念物であり、
国際保護動物である。ジュゴンの生息地を破壊するような埋め立て計画は承認せず、
国の生物多様性の象徴であり世界の財産であるジュゴンの保護策を講じて下さい。
理由
海の哺乳類であるジュゴンはかつては琉球諸島沿岸のどこにでも見ることができた
が、今ではごく少数の個体群を沖縄島北部沿岸でしか見ることができない。古来琉球
ではジュゴンと係る様々な伝承や物語が伝えられ、地域住民と深い係りが存在してい
た。沖縄のジュゴンはウチナーの魂とも言えるものであり、自然と人の営みの調和の
象徴でもあった。しかし、激しい沖縄戦を経て、食料不足の時代にダイナマイト漁で
多くのジュゴンがタンパク源として活用されその生息数を激減させた上に、戦後の開
発事業や環境汚染により沿岸域の生息場所を失い、わずかに生き残ったジュゴンも沿
岸漁業の漁網による「混獲」事故によりさらに数を減らした。現在も辛うじて豊かな
餌場である海草藻場が残されている離島沿岸にもすでにジュゴンの姿は見られない。
今や沖縄のジュゴンの安住の地は皮肉なことに開発や猟の及ばない北部沿岸の米軍基
地周辺になってしまった。
ジュゴンはその食料となる海草が光合成のできる浅海域に限られているために、常
に人間活動の影響を受ける運命である。それゆえに沖縄のジュゴンは昔から人々との
係りが深く、ジュゴンの餌である海草の繁茂する沿岸域は豊かな生態系が保持され、
海の恵みを人々にもたらしていた。
戦後、様々な要因でジュゴンの姿が見られなくなり、やがて沖縄の人々はジュゴン
のことも忘れ去ろうとしていた。日本復帰後は沖縄観光や沖縄文化がもてはやされ、
ジュゴンの棲む海はことごとく埋め立てられ空港やリゾート施設、人工ビーチが沿岸
を占領している。この10年間において沖縄県の埋め立て面積は南大東島に匹敵す
る。
戦後、極端に数を減らした沖縄のジュゴンは1955年に琉球政府により天然記念
物に指定され、1972年の日本国復帰と共に国の天然記念物となったが、餌場も棲
み処もなくしたジュゴンは沖縄の歴史から姿を消そうとしていた。しかし、1977
年、普天間基地の移転先として名護市辺野古の海上が注目され、翌年には北部沿岸海
域を泳ぐジュゴンの姿がテレビ局によって撮影され、地元沖縄はもとより、日本中に
一度は『絶滅』したと思われていた「沖縄のジュゴン」の生存が公認されるように
なった。直後より「日本の野生ジュゴンの保護」を目的とする保護運動が開始され、
2000年にはIUCN(国際自然保護連合)の「世界自然保護会議」においても『北限
のジュゴン』の保護決議が行われ、IUCNレッドデータブックにおいて「絶滅危惧種」
として指定され、その3度の「保護勧告」もされている。また、1993年には「国
際希少野生動植物種」に指定されていながら国内希少野生動植物種として指定され
ず、その生息地等の保全は手付かずのままである。
ジュゴン保護運動が開始され国内外の世論が「北限のジュゴンの保護」を求めて1
4年を経るが、国による保護策が講じられないまま彼らの生息環境は改善されず、わ
ずかに残された餌場である北部沿岸海域で数頭のジュゴン個体群が命をつないでい
る。国による最新データとして公表された防衛局アセス調査では「北限のジュゴン」
の最小個体数は3頭であり、彼らの主な餌場と回遊ルートに埋めたて計画のある辺野
古・大浦湾も含まれる。現在、最も頻繁にジュゴンの採食跡が確認されるのは嘉陽の
沿岸だが、2001〜2005年までに行われた環境省による「ジュゴンと藻場の広
域調査」においても金武湾から名護市東海岸に至る海域と西海岸古宇利島周辺海域に
ジュゴンの回遊が確認されている。特に2004年を最後に宜野座以南における回遊
目視が減ったのは、この年から開始された防衛局による新基地建設に向けての様々な
海上活動が影響している可能性が大きく、広く餌場を求めるジュゴンの回遊ルートを
分断した恐れが高い。現在は比較的安定し、静かな環境の嘉陽において採食、回遊す
る姿が頻繁に見られるが、毎日体重の一割の餌を必要とする沖縄県産ジュゴンの個体
群維持においては東西南北自由に回遊し、繁殖に必要な海草藻場面積を担保する必要
がある。また、現在最もジュゴンの活用している嘉陽沿岸の海草藻場も、昨今の異常
気象による台風等の自然災害の影響で餌場の変化が激しく、加えて住民の安全対策と
しての防災護岸の設置が現在進行中であり、今後の環境変化も大きな不安材料であ
る。
沖縄ジュゴンの個体群維持にとって、餌場と繁殖の環境の安定は欠かせないもので
あり、今は安定的に利用している海域のみに注目して、周辺海域への埋立や構造物の
建設が希少なジュゴンの生存に与える影響を評価しないことは余りに非科学的であ
る。ジュゴンの生息環境である沿岸域はひとつづきであり、海草藻場の遺伝子多様性
の維持とジュゴンの生活パターンに対応できる回遊ルートの担保は必須であろう。
一度は幻の生物として人々の記憶から去ろうとしていた沖縄のジュゴンが、戦禍や
開発を潜り抜けて生き延び、再びこのシマが日米政府によって「戦争の基地」として
装いを新たにアジアに登場させられようとしている今、「平和の象徴」としてやんば
るの海に姿を現し、人々に伝えようとしている「ウチナーの魂」を忘れてはならな
い。沖縄県知事は「辺野古の海を戦争の海にしてはならない」という戦争世代から子
どもたちまでに至る県民の願いに応え、未来に続く沖縄の自然と文化の豊かさを守
り、沖縄からアジアに向けての「平和と共生」を発信する使命があることを忘れては
ならない。
Posted by まーめ at 22:23│Comments(0)